関西国際空港と大阪を代表する繁華街「ミナミ」を結ぶ南海電鉄。
近年の訪日外国人の増加に伴い、鉄道における輸送人員の拡大のみならず、
各施設での収益拡大など、着実にその需要の取り込みを推進している。
その背景には、地域活性化へとつながるインバウンド需要のさらなる獲得に向けて、
南海電鉄が展開してきた多様な取り組みがある。
今回は、それぞれの立場でインバウンドビジネスの最前線を担い、取り組みを推進する二人のメンバーの動きに、
沿線地域の魅力を世界に発信していこうとする南海電鉄の、果敢な姿勢をお届けしたい。
運輸部営業課において観光列車のPRと新規イベントの企画立案を担当していた田邉は、2017年1月から、インバウンド向け企画乗車券の主担当を引き継いだ。当時すでに、関空・難波間の特急券付き往復乗車券や、他社線の1日乗り放題をセットした乗車券など、割引価格で買えるインバウンド向け企画乗車券が販売されており、その内容や提供方法などの改良を目指すことがミッションの一つとなった。同時に、前年の秋頃から準備が進められていた南海電鉄と関西エアポート、台湾の桃園国際空港と桃園メトロの4社連携協定締結に向け、新しい企画乗車券のプランづくりという大役も任された。
「国や地域を越えて空港運営会社と鉄道会社が共同で企画乗車券をつくるのは国内初のこと。慣習も感覚も違い、言葉の壁もあって、送金方法やレートの変動に関する取り決めなど、細かいすり合わせに苦労しました」。そんな田邉を助けてくれたのが、営業推進室営業部のインバウンドチームだ。勝部の所属する同チームは、海外に精通したスタッフが在籍している上に、どんな時でも親身に相談できる同志である。また、田邉自身の駅掌や助役としての現場経験もプランに大きく生かすことができた。「どうすれば現場でミスなく取り扱うことができる乗車券になるか、係員目線で考えることができました」。
検討を始めた時にはまだ計画段階だった4社連携協定も2017年4月に無事締結され、翌2018年2月1日、田邉が主担当として心血を注いできた企画乗車券が、台湾での大々的な記者発表を経て発売された。双方の空港から都心部までの割引乗車券に加え、両空港での食事や買い物の割引やプレゼントのサービスをセットした内容で、初日からトラブルやクレームもなくスムーズに運用され、田邉を心底ほっとさせた。「インバウンドチームの尽力もあって、台湾でぐんぐん売上が伸び、企画したものが受け入れられていると実感した時に、この仕事の醍醐味を味わいました」。
この発売に前後して、2018年1月から検討をスタートしたのが、これまで紙のバウチャー(引換券)として販売してきた各種インバウンド向け企画乗車券の、eチケット化への動きだった。田邉は当時をこう振り返る。
「まずeチケットを手がけている東京と大阪の同業他社に足を運び、詳しいヒアリングを実施。それらを参考にして、慎重にシステム会社を選定しました。そして、インバウンドチームが収集している海外旅行会社の希望などもシステム会社に伝え、システムの仕様を決定。しかるべき時期に海外への事前アナウンスもしっかり行った上で、2018年12月にサービスを開始しました」。
この時、インバウンドチーム側のメンバーとして田邉と共創したのが、入社1年目の勝部だった。勝部は、eチケット化の検討が始まって間もない2018年2月、入社後初となる海外出張でオーストラリアへ。旅行博覧会に出展し、来場者に高野山など沿線の観光スポットの魅力をPRする傍ら、精力的に現地旅行代理店を回り、eチケット化に対するニーズを調査。その結果オーストラリアにおいてもeチケット化が焦眉の課題であることを実感した。
またこの出張は、勝部に多くの収穫をもたらした。「旅行博覧会では大勢の旅行好きのお客様とお話ができ、私鉄の概念がない海外において、地域に密着した私鉄の魅力をわかっていただくことの大切さ、難しさについて、認識を新たにすることができました」。
田邉が勝部に絶大な信頼を置くのは、物事を多面的に捉える能力に秀でているからだという。「大切なことは関係者全員で話し合って決めていきましたが、話し合いで出た結論に納得がいかなかった時は、再度話し合いを求めることもあります。勝部さんの意見はいつも新鮮で、私の考えを強化してくれたので、主担当として妥協せずに再度話し合いを求め、異議を唱えることができました」。
勝部たちインバウンドチームは、海外における旅行博覧会への出展などを通じ、旅行好きのお客様に南海沿線の観光スポットの魅力を直接訴求するとともに、各国の旅行代理店に対し企画乗車券の営業を展開している。一方で、販売した企画乗車券を手に日本を訪れてくださるお客様のために、受け入れ環境の整備にも大きな力を注いできた。eチケット化への動きが進行中だった2018年3月には、日本語・英語・中国語・韓国語で手荷物の一時預かりと宅急便の受付を行う、手ぶら観光事業「n・e・s・t」1号店を難波駅に、同年12月には2号店を関西空港駅に開設している。
「南海電鉄は若手にチャンスをくれる会社です。特にこうしたインバウンド関連の新しい動きにおいては、私や田邉さんなど若い社員に多くを任せてもらえることが大きなやりがいです」と、勝部。
その言葉通り、2018年12月には、単身でフランスに出張。11泊12日の日程をこなしきった。「主目的は、世界中の旅行代理店が一堂に会して3日間にわたって繰り広げる商談会への参加です。全部で50社弱の代理店と商談を行いました」。勝部の提案はもちろん、鉄道の範囲にとどまらず、グループ会社のホテルや旅行代理店などリソースを全て活用し、国や地域によって異なる多様なニーズに対応させていく。
「たとえばアメリカからの旅行客にとっては、航空運賃などに比べれば割引額が小さい鉄道の企画乗車券は、あまり心に響きません。グループリソースを最大限に活用した、よりトータルな提案が求められます」。このため、グループ会社の旅行代理店のインバウンド担当者と事前に入念な打ち合わせを行い、各種ツアープランを提案した。そうした提案に対し返ってくるフィードバックが、受け入れ環境の整備に向けても大きな参考になったという。「たとえば、ホテルの宿泊プランをご紹介すると、Wi-Fiはあるのか、ベジタリアンに対応できるのかといった、リアルな目線での質問が飛んできます」。
こうして勝部は、たくさんの課題を発見し、それを収穫として日本に持ち帰った。対応は素早く、即座にグループで連携し、よりきめの細かい環境整備に向けた動きが始まっている。
高野山、百舌鳥・古市古墳群、加太など南海沿線の観光素材は実に豊かだ。一方で、まだまだインバウンドのお客さまに「発見」されていないのも現状である。だからこそ、南海電鉄の「インバウンド」をキーとした地域活性化には無限の可能性を感じざるを得ない。
自分たちの手で、新たな道を切り拓こうとする熱い想いを持った若手社員の挑戦は続く。
※本内容は取材当時の情報です