
自動運転への挑戦
持続可能な鉄道運営を目指して
”係員付き自動運転 (GOA2.5)”の実現に向けたプロジェクトを2020年に発足し、新たなシステムの開発から試験運転まで推進してきた南海電鉄。
GOA2.5自動運転の挑戦は民営鉄道初の取り組みであり、全国の地方鉄道のモデルケースともなり得ます。
重要なプロジェクトの中核を担う若手社員2名が、これまでの歩みと現在の取り組み、今後の展望、仕事のやりがいや職場環境について幅広く語り合いました。
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- S・Y
- 安全推進部 課長補佐2015年入社
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- O・Y
- 運輸車両部 上級主任2017年入社
プロジェクト参画までの歩み

私は2015年の入社後、車両部という技術系の部署に配属されました。車両の検査業務から始まり、本社に異動後は各装置の担当者を経験し、その後研修センターでは運転士や新入社員の教育も担当して……。いろんな部署を経て、自動運転のプロジェクトに参画しました。
私は運輸車両部に所属して、これまでに駅係員、車掌、運転士を経験し、助役(運転士や車掌の指導・監督役)も務めてきました。2020年に運転担当という部署に配属され、自動運転のプロジェクトには立ち上げ当時から携わっています。
Oさんも私もマネジメントコースで入社したので、数年単位でいろんな部署を経験してきましたね。
入社前は、鉄道系の事務職でこのようなシステム開発に携わる経験ができるなんて全然予想してなくて。いい意味でイメージが覆りました。
自動運転のミッションと取り組み
私たちが取り組んだのは、係員付き自動運転 (GOA2.5)の実現を目指すプロジェクトです。自動運転のシステムを鉄道信号メーカーと共同開発し、2023年の8月から和歌山港線で自動運転走行試験を開始しました。
このプロジェクトのミッションは2つ。まず1つは、「ATS※」を使って安全な自動運転を行うことです。「ATS」とは、運転士が運転操作を間違えたとしても自動で列車を減速・停止させる保安装置で、南海電鉄にはこれが導入されています。一方ですでに自動運転を実現している地下鉄やモノレールの線路には、高度な制御技術を有するATC※という装置が用いられています。ATSからATCに切り替えるには多大なコストと時間をかけた設備投資が必要となります。また、日本の鉄道のほとんどが現在利用しているのはATSです。だからこそ、既存の装置「ATS」をベースにした新しいシステムの開発が必要だったんです。
※ATS:線路上の地上子を通過する列車に対し、地点ごとに情報を送る自動列車停止装置
※ATC:線路上から列車へ常時情報を送る自動列車制御装置。
もう1つのミッションは、踏切がある線路で自動運転を行うことなんですが、これもなかなか難しくて。地下鉄やモノレールは線路内に人が立ち入らないという前提で自動運転をしていますが、地上の線路には踏切があり、人や自動車が踏切を渡り遅れた場合や、線路内に人が立ち入った場合の安全対策が必要となります。運転士免許を持たない係員が乗務するGOA※2.5自動運転を実現するには、線路内への人の立ち入り等に対する対応をはじめとして、どのようにして運転士が乗務する鉄道と同等以上の安全性を確保するかという観点で係員の取扱いを検討し、リスクの洗い出しと解決方法を検討することが私の役割です。
※GOA…「Grades of Automation」IEC 62267(JIS E 3802):自動運転都市内軌道旅客輸送システムによる定義

自動運転システムを実用化するためには、国の認可を得る必要があるんですよね。新しく開発した自動運転システムを搭載して、試験走行を含めた実験と改善を繰り返し、何度も会議をしながら資料を作り上げて、有識者委員会での報告を進める日々です。
Sさんはその報告の取りまとめをメインとして、運輸車両部の計画担当と連携しながらどのような車両を設計するかという検討にも関わっていただいてますよね。Sさんがチームに加入されてからすぐ、列車を駅の停車位置に正確に停車させるという重要な技術の確立にも取り組んでくださって、そういう推進力を目の当たりにして、すごいな……といつも感じています。
いやいや、ありがとうございます。優秀なメンバーばかりの中で「負けてられへんな」という気持ちです。(笑)
自動運転から広がる鉄道業界の未来

南海電鉄の自動運転システムに対して国の認可を得ること、まずはそこをクリアして、自動運転を実現に導いていきたいです。いずれはこの南海電鉄の取り組みが自動運転の導入の一例として、人手不足といった課題を抱える鉄道業界全体における自動運転の推進にも貢献できればと考えています。
そもそも自動運転の実現を目指すきっかけの一つが、日本の少子高齢化問題だったんですよね。人口が減少すれば働き手が減り、運転士の確保も困難になります。その中で会社としてはもっと業務の効率化をはかり、鉄道を維持する術を見出さなければならない。そんな中で着目した打開策の一つが自動運転でした。
運転士免許を持たない係員が電車の運転台に座る。これって、人手不足の課題を解決するだけでなく、人の仕事の可能性を広げるものだとも捉えられますよね。
そうなんですよ。自動運転列車に乗務する係員の視力や聴力といった身体的な基準についても産業医や有識者と検討を進めていて、今後必ず訪れる人手不足の問題に対して様々な観点から係員の働き方について考えています。
業務の効率化につながって、人の仕事の可能性も広がるとなると、あらためて自動運転のポテンシャルと鉄道業界においての役割の大きさを感じますね。
若手の活躍を後押しする社風
この安全推進部のチームメンバーは、各部署からいろんな人が集まってますよね。私のような車両部門出身の人間もいれば、運転担当も電気担当もいて、時には土木の担当の方に意見を伺うこともあったり。それぞれの知見を活かすというか、ぶつけ合うというか。(笑)
プロジェクトのリーダーも含めた定例会議は週に1回ですが、何かしらの話し合いはほとんど毎日。もともとの部署が違うと考え方や目線が違うので議論が白熱する時もありますね。
Oさんは柔和な雰囲気ですけど、会議とかで偏った方向に話が進みそうになると、運転担当としての考えを持ってはっきり意見を伝えてくれますよね。オン・オフがしっかりしていて感心するし、気づかされることも多いです。
そうですか?(笑)でも、自分の意見を自然に出しやすい空気感のおかげかもしれません。自動運転は大きなプロジェクトですが、私たちのような若手にどんどん任せようという意識が会社全体としてあるように感じるんです。

ベテランの先輩も多いなか、若手だからといって発言しにくい、力を発揮できないということはまずないですよね。みんな自分の立場よりもプロジェクトを成功させたいという気持ちが強いので、「今どう考えてるの?」と若手の意見を引き出そうとしてくれたりもするし。かといって甘やかされるわけじゃないですが、きちんと自分の考えを声に出すことで、これまで実現してきたことは多かったです。
学生の皆さんへのメッセージ
私は大学時代、船舶海洋工学を学んで、水中ロボットの研究をしていました。ジャンルこそ違いますが、ロボットの設計を通じて培った、物事を順序立てて考える思考法や人への伝え方などは、車両の設計やシステムについて議論していく上でも活かせています。だから今皆さんが学んでいることも、きっと意外な場面で活きてくると思うんですよ。南海電鉄は一人ひとりの特性ややりたいことを大切にする会社なので、これまでに身につけた力を存分に発揮してもらいたいですね。
私はもともと鉄道会社に入りたいという意思はあったんですが、就職活動中は運転士や助役も経験できるなんて思ってもみなかったですし、こんなに重要なプロジェクトに関わることも想像すらしていませんでした。事務職でも挑戦の連続なので、とてもやりがいを感じています。南海電鉄は若手のうちから大きなプロジェクトに関わる機会が多いので、自分がイメージしている以上に仕事の面白さを感じられると思います!
